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【おくのほそ道見聞録】壺の碑 5月8日[新暦6月24日]

壺碑(つぼのいしぶみ)市川村多賀城にあり。

つぼの石ぶみは、高サ六尺余、横三尺ばかりか。苔を穿ちて文字幽かなり。四維国界(しゆいこくかい)の数里をしるす。「この城、神亀元年、按察使(あぜつし)鎮守府将軍大野朝臣東人(おおのあそんあづまうと)之所里也。天平宝字六年、参議東海東山(とうせん)節度使同将軍恵美朝臣獦(えみのあそんあさかり[朝獦])修造而。十二月朔日(ついたち)」とあり。聖武皇帝の御時に当たれり。昔よりよみ置ける歌枕多く語り伝ふといへども、山崩れ、川流れて、道改まり、石は埋もれて土に隠れ、木は老いて若木に代はれば、時移り、代変じて,その跡たしかならぬことのみを、ここに至りて疑ひなき千歳の記念、今眼前に古人の心を閲す。行脚の一德、存命の喜び、羈旅(きりょ)の労を忘れて、涙も落つるばかりなり。

「新版 おくのほそ道」角川ソフィア文庫より

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